アイデア、発明、そして商品

 

 開業して20年目になりました。私は当初から趣味、あるいは生き甲斐としてアイデアが浮かんだらそれを発明につなげるよう心掛けてきました。

 日常生活に便利なものがどんどん発明されています。その昔発明王エディソンが電球や電話、蓄音機を世の中に送り出しました。今や町の主婦が洗濯機の糸くず取りやダイエットスリッパなどを考案。それも立派な発明です。

 日本はすでに発明大国で、個人発明家もたくさんいます。各地に発明研究会があり、私も時々地元の研究会に顔を出します。そこで最初に発表したのは、自分の子供時代に親から学んだカードゲーム。「24カード」と言って無作為に選んだ4枚のカードを、四則計算で24になるように工夫して、先に計算できた者が勝つゲーム。小中学生の頭脳トレニーングとして役立つものだと思いました。それからは自分のアイデアで何かできないかと考えるのが楽しくなりました。アイデアのヒントは日常生活のふとした瞬間に生まれます。私はときどき仕事中にひらめきます。

 例えば、診療所では漢方薬を処方します。苦いので嫌々ながら飲む患者さんの訴えを聞いて苦みを素通りするようなコップはないかと探したが、見つからず、それなら自分で考案しようと作ったのが「鵜呑み君」(写真1)です。くちばしに漢方薬を乗せ、目のところを押しながらコップを傾けると、ほら、薬と水が一気に口に流れ、ごっくん。まさに薬を鵜呑みにしたわけです。特許と商標を取りました。

 私のところに訪れる患者さんの中には陥没乳頭で悩む女性が多いです。しかし手術をしても根治率が低く、授乳困難になったり、乳腺炎を併発したり、トラブルが多く報告されています。私は乳頭を持続的に吸引すれば手術をせずに治ると確信しました。市販の吸引器はせいぜい自宅で数分使うだけのもので、外出時の装着は無理です。そこで考えたのは「ピペトップ」(写真2)であります。15, 6ミリの大きさで、ブラジャーの下につければ、どこでもいつでも人に知られず持続吸引できます。現在、実用新案と商標をとって販売しています。効果は予想どおりで、大変喜ばれています。

 また、手術の後は、必要に応じて患部を圧迫、冷却します。四肢の関節部位は普通の保冷剤では関節の動きの妨げになり不便です。そこでデザインしたのはジョイントを付けたアイシング装具、名付けて「愛心具」。試作品は使い終わった点滴パックを利用してみました。切りなおして水を入れ、亀の甲羅のように連結してシーリングし、冷凍庫に。使う時はサポーターと併用すれば創部を冷却と同時に圧迫もできて、使い勝手が良く、意外にも特許が通りました。

 スライサーが原因で手に傷を負う主婦の診察も多いですが、野菜を剥くとき指まで剥けてしまったと言います。それで、ガード付きスライサーを作ろうと考えてみました。試作をしたり、特許を念頭にいろいろ調べてみました。ところが特許庁にはすでに同様の案件があり、特許などの権利は取れませんでした。ガード付きスライサーの市販品はまだ出会っていません。私の案と似ているものがあれば使ってみたいものです。

 それ以外も特許、実用新案、商標(写真3)をいくつか取得しました。日本発明学会名誉会長故豊沢さんの口癖は「アイデアは愛である」。氏は多くの著書をされ、アイデアから発明までかなり紆余屈折を味わったそうです。エディソンはこんなことを言いました。「私は売れないものは発明したくない」。私はそんな贅沢なことは言いません。もちろん売れたらうれしいですが、実際現在売れたのはピペトップのみ。打率は1割。それでも必要は発明の母(Necessity is the mother of invention)という言葉を実感できたような気がします。開発費がかかって発明貧乏になる話も聞くけれど、私はどちらかというと気楽に、時間に追われず時々試作品を作り、周りを巻き込みながら楽しんでいます。最近も身障者を診察して手足の爪を楽に切る器械があったら・・・、切った傷を縫わずに済むような皮膚の接着剤はないか・・・など、考えを巡らせています。

                                                             2017.8

 

  写真1

  写真2

  写真3

 

                           

 

 

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