手洗いに石けんと消毒は不可欠?

 

 今回のコロナ禍は100年ぶりの世界的パンデミックに間違いありません。特効薬がない現状においてはマスク・手洗い・三密回避が有効です。では、手指を石けんや洗剤で洗うことが正しいかどうか?結論は後にして、まず日常の診察で気づいたことを2,3言及したいと思います。

 外来でよく手荒れの患者さんを診察します。定番のステロイド軟膏を使っても症状は一進一退。我々は手を洗う時に石けんや洗剤を使えば更にきれいになると思っています。しかし同時に皮膚の表面にある皮脂も取れてしまいます。弱酸性の皮脂には善玉の表皮ブドウ球菌が常在し、病原菌をシャットアウトする免疫機能を有します。皮脂のない皮膚は乾燥して老化を早めるのみならず、病原菌やウイルスに侵されやすいのです。以前ある報道番組で、寿司屋に恨みを持つアルバイト店員が店の生けすに洗剤を入れて中の魚が全滅させたとありました。魚が死ぬくらいの毒物が肌に良いわけはありません。主婦湿疹の患者さんが医師に主婦をやめなければ治らないと言われたそうです。主婦に限らず、洗剤や石けんを扱う人なら誰でも罹る可能性があります。ならば使わない工夫をすれば湿疹は改善するはず。油汚れをキッチンペーパーで拭き、お湯で洗えば十分だ。洗っても落ちない汚れはもはや口には入りません。自院は外来患者さんに、このように指導することで、大半の主婦湿疹が治りました。

 では消毒薬はどうですか。現在、一般的にアルコール(酒精)と次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)が広く使われています。自験例で、手指をそれぞれ①水洗い、②石けん洗い、③アルコール消毒、それらの手指を培地でスタンプ培養しました。室温ですべて3,4日でコロニーの形成を認めました。コントロールの非処理の手指は1日でコロニーが確認されました。消毒薬の一時的な除菌除ウイルスの効果は否定できないが、流水での手洗いとほとんど差がありませんでした。余談ですが、ハイターは取り扱いを誤れば、毒ガスを発生します。ところが似た成分名の次亜塩素酸水(強酸水、pH2.7以下)は殺菌力があり、安全性が高く、手荒れを起こしません。食中毒予防のため飲食店でまな板の消毒によく使われます。当院も製水器で作って患者さんや希望者に無料で配っています。

 MR(薬品メーカー営業員)がクリニックに訪れ、石けん・洗剤による手荒れ用の内服薬を勧められました。それは本末転倒です。洗剤類をやめれば済む話です。脱石けん・洗剤は体にも懐にも地球にも優しいことです。

 結論:日常の手洗いには石けんや洗剤は要りません。ただし、手荒れが減れば皮膚科の患者さんも減る?それが少し気がかり・・・・・・



                                                       2020年12月 

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